------------------------------------------------------------------------------ アスカとシンジの戦い ------------------------------------------------------------------------------ <ミサトのマンション> 「アスカ、明日は朝からハーモニクステストがあるんだから、もう寝なさい。」 深夜1:00、アスカはポテトチップスを食べながら、TVを見ている。 「聞いてるの?」 アスカのシンクロ率は、エヴァ起動指数ぎりぎりまで落ち込んでいた。 「ウルサイわね! アタシなんかがハーモニクステストしても仕方ないでしょ! 大丈夫 よ、使徒が来たら無敵のシンジ様が、ちょちょいのちょいでやっつけてくれるわよ。」 「アスカ・・・。」 リビングから聞こえるアスカとミサトの会話を、寝付けないシンジは自分の部屋のベッ ドの上で聞いていた。 「あなたもエヴァのパイロットでしょ!」 無駄だと思いつつ、なんとかアスカの自信を取り戻そうと、ミサトはわずかな抵抗を試 みる。 「このアタシがぁ!? 使徒を倒すこともできない、ろくにシンクロすることもできな いこのアタシがエヴァのパイロット? シンジがいればいいのよ! シンジ1人がいれ ばいいのよ! アタシなんかいらないのよ!」 ガバッっと立ち上がると、大声で喚き散らす。もう、ミサトには何を言っていいのかわ からず、ただ、自暴自棄に喚くアスカを悲哀の目で見つめることしかできない。 やっぱり、家族ごっこだったのね・・・。 崩壊してしまった家族。もう、元にはもどらない。 ガタガタ。 会話を聞いていたシンジが、部屋から出てきた。 「あーーら、これはこれは無敵のシンジ様の睡眠を邪魔してしまって、わるーございま したわね。」 アスカは、シンジを睨み付ける。 「いいよ、そんなこと。まだ、寝てなかったから。」 「フン!」 アスカは、シンジから目をあからさまにそらすと、自分の部屋に戻ろうとする。 「アスカ?」 呼び止める。 「何よ! 笑いに来たの!?」 「本当に、ぼくの方がアスカよりエヴァの操縦が上手いのかな?」 その言葉に、肩が怒りと屈辱に震える。言葉も無く、拳を握り締めシンジを睨み付ける アスカ。 「いつもぼくが使徒を倒すのは、初号機が暴走してるだけなんだけど・・・。」 「な・・・何よそれ! 余裕のつもり! 人を馬鹿にするのもたいがいにしなさいよ! ふざけんじゃ無いわよ!」 「馬鹿になんかしてないよ。あのさ、どちらが本当のエースパイロットか、明日勝負し ようよ。」 パーーーーン! 「アンタ・・・いいかげんにしなさいよ! 今のアタシが、アンタのシンクロ率を超え られないの知ってて! 馬鹿にしてんじゃないわよ!」 アスカの平手がシンジの頬を赤くする。シンジは、ここで逃げてはダメだと自分に言い 聞かし、頬をさすりながら喋り続ける 「シンクロ率で勝負するんじゃ無いよ。実戦で勝負しようよ。」 「な!」 驚愕するアスカ。 「ちょ、ちょっと、シンちゃん!」 今までミサトは、黙って事の成り行きを見ていたが、さすがに黙っているわけにはいか ない。 「実戦って、エヴァ同士で戦うつもりなの!? そんなこと認められないわ!」 「お願いします。」 頭を下げるシンジ。 「エヴァにいくらお金がかかってるか知ってるの? 認められるわけ無いでしょ!」 「いえ、武器を使う気はありませんから。エントリープラグを抜き取った方が勝者って いうことでいいです。それに、初号機は、下手に刺激したら暴走しかねないし・・・。」 「アタシはいいわよ!」 「アンタ達! いいかげんにしなさい! 遊びじゃ無いのよ!」 その日は、夜も遅かったこともあり何も解決しないまま、3人は眠りについた。 <ネルフ本部> 「本気ですか!?」 ゲンドウに再度確認するミサト。 「問題無い。」 シンジが、アスカとの戦いをゲンドウに直訴した結果。許可がおりたのだ。 「わかりました。シンジくん、アスカ、エヴァの発進準備急いで。」 シンジとアスカは、顔も合せずエントリープラグに乗り込む。 ルールは、武器は使用しない。コアは狙わない。エントリープラグを抜いた方が勝ちと いうことで戦う。 しかし、シンジとアスカの間にはその他にも別の約束があった。時間はほんの少しさか のぼる。 ● ケージへ向うエレベータに乗る2人。 「シンジ、手を抜いたら殺すわよ!」 「そんなことしないよ。その証拠に、賭けをしない?」 「賭け?」 「そう、賭け。もし、ぼくが勝ったら、アスカがほしい。」 「な!」 「将来、ぼくと結婚してほしい。」 「アンタバカぁ?」 「その代り、アスカが勝ったらぼくを好きにしてくれてかまわない。死ねと言われたら それでもいい。」 「フン! 余裕ね。まぁ、いいわ。後で後悔させてあげるわ!」 ● 初号機と弐号機は、地上で向き合っていた。 「いいわね。2人とも。」 うなずく2人。 「用意・・・・・・・・・・・スタート。」 ミサトの号令と共に、2体のエヴァはお互いを目掛けて突進する。 ガーーーン。 ぶつかり合う、2体のエヴァ。互いに互いの手を持ち、力比べの状態になる。 「くっ!」 押される弐号機。 膝を地面につきながら応戦するが、シンクロ率の差が如実に現れてしまう。 ドカドカドカ!! シンジは、弐号機から右手を離すと、腹部をなぐりつける。 「くぅーーーーーーー。」 苦痛にもがくアスカ。自由になった左手で初号機の横っ腹を殴るが、体勢が悪くあまり 効果が出ない。 ドカドカドカ!! 容赦無く殴り続けるシンジ。 「ちくしょーーーー!!!」 不利な体勢を挽回しようと、アスカは初号機にタックルするが、逆に蹴り飛ばされる。 「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」 後ろに吹っ飛ぶ弐号機。シンジは容赦無く体当たりする。 「アスカ! それでも、元エースパイロットなの?」 弐号機の首を掴み、締め付けながら立ち上がらせる。 「ぐぐぐぐぐ・・・。」 アスカは何も答えられず、苦痛にもがく。 「シンジくん! アスカを殺す気なの!」 ミサトから通信が入る。 「これは、真剣勝負です。口を挟まないで下さい!」 ミサトの言葉を聞き入れないシンジ。 「ぐ・・・余計なこと・・・ぐぐ・・・するんじゃ・・・無いわよ・・・ぐぐぐぐ!!」 苦痛に顔を歪めながら、アスカも叫ぶ。 ガンガンンガン! 右手で弐号機を吊し上げた状態で、腹部に膝蹴りを連打するシンジ。 「ぐはっ!」 アスカ・・・どうして反撃してこないんだ・・・。ぼくを殴りつけてよ・・・。 弐号機を蹴り続けるシンジの目から涙が零れる。 「くそーーーーーー!!! これでもかーーーーー!!!」 弐号機を殴り飛ばす。 ちくしょーちくしょーちくしょーちくしょーちくしょーちくしょー。 装甲板に亀裂が入り倒れる弐号機の中で、何もできない自分に苛立つアスカ。 まだ、駄目なのか・・・アスカ・・・。 目に涙を溜めながら、シンジは、ふらふらと立ち上がる弐号機に殴り掛かる。 「こんちくしょーーーーーーーーーーー!!」 「うわーーーーーーー!!!」 シンジが殴りかかった時に、弐号機の足が腹部にヒットする。カウンターを当てられる 形になり、すぐには立ち上がれない。かなりのダメージだ。 「うおりゃーーーーーーーーーー!!」 シンジが倒れている隙に、体勢を立て直したアスカは、初号機の上に馬乗りになり殴り 付ける。 ドガドガドガ!! 「ぐわーーーーー!!!」 シンジは、体勢が悪すぎ反撃できない。 ドガドガドガ!! なおも容赦無く殴り続けるアスカ。 そう、それでいいんだ・・・アスカ・・・。でも、そう簡単にはやられない! シンジは苦痛にもがきながら、弐号機から逃れようともがく。 「そう簡単に逃がすもんですか!!!」 ドガドガドガ!! 初号機の装甲板にも亀裂が走る。 「うわーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」 懇親の力を込めて、シンジは蹴り上げる。アスカは蹴り飛ばされたものの、すぐに体勢 を立て直す。 「アスカのシンクロ率、上がっています!」 マヤが叫ぶ。 モニタで外の状況を睨んでいた、ミサトとリツコがインジケータに目をやった。 「ほんとだわ。」 以前の数値にまで完全には戻っていなかったが、シンクロ率が40を超えている。 「シンジくん、ありがとう・・・。」 ミサトがモニタに映るシンジを見つめていた。 地上では、ほぼ互角の力になった2、体のエヴァが殴り合っていた。 弐号機に体当たりするシンジ、しかし、アスカも両手で防御する。 体勢を崩した初号機に、蹴りかかるがシンジもそれをかわす。 いつ決着が着くかわからない、戦いになってきた。 : : : 既に、戦いが始まって1時間が経過しようとしている。 「はぁはぁはぁはぁはぁ。」 「はっはっはっはっはっ。」 2人は、体力的にも精神的にも限界を超えていた。 「シンジくん、アスカ、もういいわ、帰ってきなさい。」 いつ終わるともしれない戦いに、終止符を打とうとするミサト。 「ダメです。まだ決着がついていません!」 「余計な口出ししないで!」 ミサトの意見を受け入れない2人。 「もう、2人の力は互角だって証明できたんじゃ無いの!? もういいんじゃない?」 しかし、シンジは、ミサトの言葉を無視して、弐号機に殴りかかる。それにアスカも、 応戦する。 シンジは、殴りかかった拳を払いのけられたので、体勢の乱してしまう。 このチャンスを逃してなるものかと、アスカは足を集中的に狙い、初号機のバランスを 崩しにかかった。 「くそーーーー!!」 アスカの執拗な足への集中攻撃に、シンジは、我慢しきれず膝をついてしまう。 「もらったわ!」 初号機の後ろに回り込み、エントリープラグに手をかけるアスカ。 「きゃーーー!!」 しかし、体力の限界だった。足元に広がる沼地の泥水に、足を取られて倒れる弐号機。 ギュイーーーーーーーーーーーーン。 送出されるアスカのエントリープラグ。 倒れた瞬間、シンジに背後を取られエントリープラグを排出されてしまったのだ。 全ては終わった・・・。 ● ケージに回収される初号機と弐号機。初号機の手には、アスカのエントリープラグが握 られている。 エントリープラグを降りる2人。長時間に渡る戦いを行った為、2人とも立ち上がれな いほど疲労していた。 「やっぱり負けたわね・・・。約束は守るわ。」 「・・・・・・。」 「あそこに泥沼が無かったら、今頃、立場は逆転してたのよ! 忘れないでね!」 「うん。解ってる。」 ケージで、立ち上がることもできず、腰を降ろして見つめ合う2人。 「アンタが勝ったのよ! もうちょっとうれしそうな顔しなさいよ!」 「うん。まさか、勝つとは思ってなかったから・・・。」 「え?」 「負けると思ってたから、変な約束してしまって・・・。」 「アンタ負ける気だったんじゃ無いでしょうね。」 「そんなこと無いよ。もし、その気ならエントリープラグをあそこで抜かないよ。」 「そうね。まぁ、いいじゃない。この先、このアタシを自分の好きにできるのよ。何が 不満なの?」 「・・・・・・・・・・。」 「どーしたのよ!」 「こんな形で・・・・・・・・嫌だ・・・。」 「シンジ?」 「あの約束、忘れてくれないかな?」 「哀れみなんて、いらないわ!」 「ぼくが、忘れてほしいんだ・・・。嫌なんだ、こういうの・・・。」 「ダメよ! 約束は約束よ! 守ってもらうわ!」 「でも、こんな形は嫌だから・・・。」 「ダメよ! 男に二言は無いのよ! アンタは一生アタシの面倒を見るって約束したんだ から、最後まで見てもらうわ!」 アスカは、シンジに抱き着いた。 「え!?」 「自分の言葉には、責任持ちなさいよね!」 「うん・・・。わかった・・・。」 ● <ミサトのマンション> アスカのシンクロ率も、だいぶ戻ったし、これで自信を取り戻してくれてたらいいんだ けど・・・・。 仕事を終えたミサトは、自分の家の扉を開けた。 「ただいま。」 また、明るい家族に戻れることを期待していたのだが、返事が返って来ない。 そう都合良くはいかないか・・・。 ミサトは静かに靴を脱ぎ、リビングに入ると、そこは真っ暗だった。 あの2人、まだ帰って無いの? 電気をつけ、1人でエビチュを飲み出す。 ん? 何やら、アスカの部屋から笑い声が聞こえる。アスカの部屋の前に立つと、シンジの笑 い声も聞こえてきた。 トントン。 「アスカ、入るわよ。」 襖を叩き、声を掛けてみる。 「あ、ミサトさん帰ったんですか?」 ミサトが開ける前に、襖がひとりでに開き、シンジが出てきた。 「シンちゃん何してたの?」 「え、ちょっと話しをしてただけですよ。」 後ろからアスカも出てくる。その手は、シンジの腕に巻き付けられていた。 「じゃ、ご飯作りますね。」 「アタシも手伝うわ!」 シンジとアスカが、仲良く夕食の準備を始める。端から見ていると新婚夫婦の様だ。 「アンタ達・・・、どうしたの?」 「今日の戦いに負けたら、バカシンジのフィアンセになるって賭けしてたのよ。」 アスカがさらりと答える。 「フィアンセって、アスカ、そんなこと簡単に決めていいの?」 呆れるミサト。 「勝負は勝負よ!」 「勝負って、アンタねぇ。」 「嫌だって言っても、シンジが許してくれないのよ。」 アスカの言葉に、シンジは慌てる。 「違いますよ! ぼくはもういいって言ったんですけど、アスカが約束は約束だからっ て!」 必死で言い訳する。 「なによ! 自分で言い出した癖に、嫌だって言うの?」 「そんなこと言って無いじゃないか! ただ、賭けは関係無いって・・・。」 「ちゃんと、一生アタシの面倒見るのよ! 約束なんだからね!」 2人の会話を端で聞くミサト。いちゃついているようにしか見えない。 「もぅ仲がいいのはわかったから、早くご飯の支度してよ!」 いつまでたっても、食事の支度が進まないので、イラつく。 「30にもなって、独身だと短気になるのよ! あぁいう風にはなりたく無いわね!」 「大丈夫だよ。アスカはミサトさんみたいになる前に、ぼくと結婚するんだから。」 ムッカーーーー!! ミサトの髪が逆立つ。 「あんた達! 誰のおかげでこの家にいられると思ってんの!!!」 「別に、出ていってもいいわよ! アタシはシンジに付いて行くだけだから。勝負に負 けてしまった以上、離れるわけにいかないしねー。」 ニヤニヤしながら、ミサトを睨むアスカ。 「でも、シンジがいなくなったら、明日からご飯はどーするのー? 洗濯は誰がするのー? きっと、3日でこの家は廃虚になるわね。」 ミサトは、ぐうの音も出ない。 「わかったら、おとなしく待ってなさいよね!」 アスカは再び、夕食の準備をしはじめる。 ひさびさに聞いたアスカの嫌味。 煩くて、にぎやかで、騒がしい家族。 楽しそうな2人の背中を見つめるミサトの目には、本人も気付かぬうちに、一筋の涙が 流れ落ちていた。 fin.